足底挿板の隆起部位が静的・動的立位バランスに及ぼす影響について
学生氏名:梶川 望
指導教員:甲田 宗嗣
キーワード:インソール、静的立位バランス、動的立位バランス
はじめに
足底挿板(インソール)は、中敷きに凹凸を加えることで、身体の土台である足の肢位やその使用方法に変化をもたらすものである。
インソールの使用が静的および動的バランス、ひいては運動パフォーマンスに与える影響については、依然として報告が少ないのが現状である。
本研究では、足底挿板の有無および挿板の支持部位の違いが、動的・静的バランスにどのような影響を及ぼすかを明らかにすることを目的とし、身体機能や動作パフォーマンスの向上との関連について検討を行った。
対象と方法
対象は20代前半の男子学生12名とし、いずれも下肢に整形外科的既往のない者とした。全対象者に対し、本研究の目的および方法について十分な説明を行い、同意を得た上で実施した。
被験者の服装は学校指定の運動着、靴は学校指定のシューレースタイプの体育館シューズに統一し、靴下は各自が用意したものを使用した。
測定は以下の3条件で実施した:
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BMZ社製CCLP(以下、インソールA)使用時
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BMZ社製インソール(以下、インソールB)使用時
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体育館シューズに既存のインソールを用いた無加工状態(以下、インソールなし)
静的バランスの評価にはアクティブバランサーを用い、閉眼片脚立位を30秒間実施して重心動揺を測定した。
動的バランスの評価には以下の項目を用いた:
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3m往復走
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3m片脚往復走
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10m走
いずれも床面にテープでスタートおよびエンドラインを設け、所要時間を計測した。
得られたデータは、「インソールA」「インソールB」「インソールなし」の3水準に設定し、EZRを用いた一元配置分散分析(ANOVA)により統計処理を行った。
結果
静的バランス(重心動揺)においては、3条件間で有意差は認められなかった。
一方で、動的バランスの指標では以下の結果が得られた:
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3m往復走:3群間で有意差が認められ、多重比較の結果、インソールBとインソールなしの間に有意差が確認された。
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10m走:3群間に有意差があり、多重比較にてインソールAとインソールなし、およびインソールBとインソールなしの間で有意差が認められた。
考察
3m往復走では、インソールBの使用により所要時間が短縮され、有意差が認められた。
BMZ社のCuboid Balance理論に基づくインソールBは、立方骨を支持することで足部の3つのアーチ(内側・外側・横アーチ)からなる「足ドーム」の構造を整え、運動性(歩行・移動)、安定性(体重支持)、柔軟性(衝撃吸収)を高めるよう設計されている¹⁾。
3m往復走は、短距離の加速・減速・方向転換を繰り返す種目であり、これにおいてインソールBの運動機能向上効果が寄与した可能性が高いと考えられる。
10m走においても、インソール使用群で有意に所要時間が短縮された。特に、インソールBは重心を前方へと移動させやすくする設計により、歩幅やケイデンスの増加を促し、結果として走行時間の短縮につながったと考えられる。
研究当初は、インソールAの方が高いパフォーマンス向上を示すと予測していたが、結果はインソールBの方が優位であった。
インソールAは、足から生じる小さな力を全身へと効率的に伝達する設計となっており、その性能を十分に引き出すには使用への習熟が必要であるとされている¹⁾。
本研究では、事前のトレーニングや使用指導が行われていなかったため、汎用性が高く即効性のあるインソールBの方が効果を発揮した可能性がある。
結語
今後は、インソールを使用した状態で十分な訓練期間を設け、静的・動的バランスへの影響をさらに詳細に検討していく必要がある。
また、健常者における運動パフォーマンスの向上が確認されたことから、足部・足関節に疾患を有する患者や、高齢者に対する転倒予防・バランス機能改善への応用など、臨床的意義も示唆される。
参考文献
¹⁾ BMZ公式サイト:http://bmz.jp/footcouture.html