BMZインソールが平地、斜面における立位重心動揺に与える影響
深木 良祐¹), 髙田 雄一¹), 奥村 宣久¹), 松岡 審爾¹), 内山 英一²)
1)北海道文教大学人間科学部理学療法学科
2)札幌医科大学保健医療学部理学療法学科 基礎理学療法学講座
【はじめに・目的】
ヒトの立位バランス能力は、生活を営む上で重要な能力の一つである。転倒の要因には、以下のようなものがある:
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筋力や協調性などの運動要因
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深部覚・視覚・聴覚などの感覚要因
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注意・意識・学習などの高次脳機能要因
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床・照明・障害物などの外的環境要因
これらは立位バランスに大きく影響を及ぼす。外的環境要因への介入の一つにインソール療法があり、近年では**立方骨サポート理論に基づいて開発されたBMZ社製インソール(以下、BMZ)**が注目されている。
しかし、既存インソールとBMZの重心動揺に関する比較研究は存在しない。
本研究では、平地および片斜面において、インソールなし・既存のインソール(SUPER feet)・BMZを比較し、重心動揺への影響を明らかにすることを目的とする。
【方法】
対象
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学生 40名(通常足20名[男10・女10]、扁平足20名[男10・女10])
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身長:164.4 ± 8.2 cm
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体重:56.8 ± 7.9 kg
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靴サイズ:25.2 ± 1.1 cm
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扁平足の分類には bony arch index(BAI) を用いた。
計測機器
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多目的重心動揺計測システム zebris(インターリハ株式会社製)
計測条件
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インソール条件:なし、SUPER feet、BMZ(順番はランダム)
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地面条件:平地、右片斜面(傾斜15度)
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靴:紐なし運動靴
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立位:足間10cm開き、目線上のマークを注視
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測定時間:各条件30秒
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測定回数:各条件3回(平均値を分析に用いた)
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条件変更時に1分間の休息
分析
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測定項目:総軌跡長、外周面積
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統計解析:IBM SPSS Statistics Ver.19
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二要因に対応がある三元配置分散分析
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有意水準:5%
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【倫理的配慮】
全対象者に対して書面および口頭で研究の方法と目的を説明し、同意を得た上で実施。
【結果】
総軌跡長(mm)
条件 | 通常足 | 扁平足 |
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インソールなし | 381.0 ± 73.5 | 449.2 ± 60.1 |
SUPER feet | 365.8 ± 76.2 | 412.2 ± 57.9 |
BMZ | 369.1 ± 73.5 | 417.6 ± 73.5 |
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片斜面(通常足):
インソールなし:1038.2 ± 231.0
SUPER feet:1090.0 ± 345.0
BMZ:1001.4 ± 240.3 -
片斜面(扁平足):
インソールなし:1150.9 ± 308.4
SUPER feet:1168.5 ± 434.1
BMZ:1069.8 ± 287.0
→ 平地・片斜面ともに有意差あり。
→ インソールと足部タイプ間に交互作用が発生。
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平地では、通常足・扁平足ともにインソールなしと比較して、SUPER feetおよびBMZ装着時に有意に減少(P<0.05)
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片斜面では、インソールなし・SUPER feetと比較して、BMZで有意に減少(P<0.05)
外周面積(mm²)
条件 | 通常足 | 扁平足 |
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インソールなし | 72.7 ± 31.0 | 103.3 ± 56.5 |
SUPER feet | 71.5 ± 38.6 | 91.1 ± 40.0 |
BMZ | 82.4 ± 51.1 | 99.8 ± 52.8 |
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片斜面(通常足):
インソールなし:108.6 ± 70.4
SUPER feet:118.6 ± 109.1
BMZ:107.0 ± 76.1 -
片斜面(扁平足):
インソールなし:139.1 ± 70.2
SUPER feet:131.2 ± 88.6
BMZ:133.0 ± 71.5
→ 平地・片斜面ともに有意差なし
【考察】
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総軌跡長の結果より、内側縦アーチへの適度な圧が平地での重心動揺を小さくすることが先行研究で示されている。
SUPER feetはこの機序により、平地での安定性向上に寄与したと考えられる。 -
一方、BMZは3つの足部アーチを統合した“足ドーム”を立方骨から支える設計であり、SUPER feetとは異なる機序で安定性に寄与している可能性がある。
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片斜面においては、BMZが最も重心動揺を抑制。
SUPER feetでは片斜面で足部回外が増強し不安定になるのに対し、BMZではより中間位に近い足部アライメントが保持されたと推察される。 -
今後は、インソール挿入後のアライメント変化についての検討も必要。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により、BMZインソールは不整地環境において重心動揺距離をコントロールしやすくする可能性があることが示唆された。