BMZインソールが敏捷性に与える影響について

工藤寛大(クラーク病院)・奥村宣久(北海道文教大学)


Ⅰ.はじめに

筆者らは,立方骨サポートを特徴とするインソール(以下;BMZ)の有効性について研究を行っている.インソールの運動パフォーマンスに与える影響に関する研究はあまり多くなく,BMZについても,歩行に関する基礎研究がわずかに学会発表でみられる程度であり,日常生活動作やスポーツに対してどのような変化がみられるのかについては,ほとんど研究されていない.

運動パフォーマンスには様々な要素があるが,インソールが影響する可能性があるものとして,敏捷性があげられる.大築¹)によると,敏捷性すなわち素早さについて,

  • ① 刺激から行動開始までの反応時間

  • ② 動作そのものの時間

  • ③ 動作と動作の切り替えの時間

の三つの要因があると述べており,敏捷性はこの中でも**動作の切り替えの時間が重要²)**とされている.

敏捷性の必要場面は,日常生活の危機回避や競技においての急激な加速や減速が求められる場面が想定されている³).よって敏捷性の向上により,日常生活では安全面の改善,スポーツでは運動パフォーマンスの向上が期待できるといえる.

そこで,今回は敏捷性の向上を見るために「新体力テスト」のプログラムに記載されている反復横とびを使用し,BMZの敏捷性に対する影響を検討することを目的とした.

新体力テストの反復横とびは20秒間の跳んだ回数を見るものであるが,酒巻らは20秒間では持久力の因子がみられることから,敏捷性を測定する方法として10秒間を設定している⁴).この方法だと持久力の影響は排除できる.

しかし,一定時間における回数の比較では,跳んでいる途中で終了した場合の数値化が難しいと思われたので,今回の実験では一定回数の所要時間の変化に焦点を当てて検討することとした.予備実験の結果,およそ30回の施行で10秒程度となったため,30回にかかる所要時間を比較検討することとした.


Ⅱ.方法

  1. 対象:健常成人男性19名(平均年齢21.2歳)

  2. 実験環境:滑りにくさを考え,木製床トレーニングルームで実施

  3. 予備研究:被験者3名に対して30回の反復横とびを10回実施。結果として6回目の記録から時間の誤差が小さくなった

  4. 測定方法

    • 新体力テストにある反復横とびを基にし、30回の所要時間を計測

    • 実験者の「用意、スタート」で開始し、30回時点で口頭にて終了を知らせた

    • 課題は9試行。最初の5回は練習、BMZの有無をランダムにして各2回ずつ本番測定

    • タイムの速い方を採用

    • 条件順序は「BMZ→無し」と「無し→BMZ」の2パターンで実施

    • BMZ非使用時は機能的効果のないインソールを使用

    • 試行間は2分間の休憩

    • 実験後に自由記述で感想を聴取

  5. 統計:対応のある2群のt検定を使用


Ⅲ.結果

  • 順序効果および疲労の影響
    パターンA:11.6±1.0秒,パターンB:11.6±1.04秒 → 有意差なし(p=0.76)

  • 反復横とび所要時間
    19名中14名が短縮,最も短縮した被験者は0.88秒向上
    一方,所要時間が増加したのは5名,最大で0.55秒の遅延

  • タイム平均

    • 機能なしインソール:11.7±1.08秒

    • BMZインソール:11.5±0.95秒
      有意に短縮(p=0.03)

  • 感想(自由記述)

    • 「動きやすくなった」:15名

    • 「わからない」「痛かった」など:4名

    • 「着地がスムーズ」:3名

    • 所要時間が増加した中でも「動きやすくなった」との回答あり


Ⅳ.考察

順序や疲労の影響は否定されたため,BMZ装着時の所要時間の有意な短縮は,BMZが敏捷性を向上させることを示唆している.

反復横とびにより評価される敏捷性は「動作の切り替え時間」とされ,今回の結果と合致する.また,被験者の多くが「動きやすくなった」「着地がスムーズ」と回答していることから,動作そのものとその切り替えが円滑になった可能性が高い.

一方,BMZで所要時間が増加した被験者もいたが,感想にはネガティブな内容は少なく,「変わらない」あるいは「動きやすかった」とするものもあった.これはBMZによる重心位置や姿勢変化の影響を,無意識下で感じ取った結果である可能性も考えられる.

筆者らの別の研究でも,BMZ使用時に歩行の前方加速度の増加、上下左右加速度の減少(=歩行安定化)などの傾向が示唆されており、足の接地後のバランス制御にBMZが影響している可能性がある。

今後は、横方向の運動における加速度や床反力の分析が必要とされる。


Ⅴ.おわりに

課題に対する慣れの影響を抑えるために連続で実験を行った結果、反復横とびを計270回実施することとなった。順序効果はなかったが、最後の試行において全力を出すなど、身体的・心理的疲労の影響が見られた。

今後の研究では、BMZの有無を別日に分けて測定し、慣れの影響も検討することが望ましいと考える。


<文献>

1)大築立志 「たくみ」の科学 朝倉書店 53-87,1988
2)堀川真那,藤原素子 反復横とびにおける素早い方向転換動作 奈良女子大学スポーツ科学研究13 13-22,2011
3)山口宗明,山田義久,林田昌子 敏捷性の測定方法 理学療法22(1)66-72,2005
4)酒巻敏夫,他 反復横とび測定方法の検討 体力科学(1974)23,77-84