BMZインソールが負荷歩行に与える影響について
山中美紗(森山メモリアル病院) 奥村宣久(北海道文教大学)
Ⅰ.はじめに
足には3つのアーチがあり、内側縦アーチ・外側縦アーチ・横アーチがある。その3つのアーチを変化させて地面の凹凸、傾斜に足部を適合させ立位を保持すると同時に、衝撃を吸収し、運動エネルギーを伝播し、身体の移動に際してその推進力を提供する¹⁾。
インソール(足底板)とは靴の中敷きに凹凸を付け、人間の土台となる足の肢位や使い方に変化を与えるものである。主に足のアーチを補正する目的で用いられ、内足を凸状にしたもの、踵部分を凹状にしたもの等が代表的である。
BMZ社製インソール(以下:BMZ)は、足の立方骨を下方から適度に支える構造を最大の特徴としている。この構造は「内足部は運動する部分であり、外足部は安定すべき部分であり、その2つの要素を同時に満たすことが重要である」というコンセプトによって作られており、開発者は足や体のアライメントを無理なく正常な状態に近づけることができ、安定性と運動性の要素を実現することが可能となると主張している。
筆者らは、BMZが歩行に与える有効性について、装着前後の加速度の変化に着目して検討を行っている。まだ学会発表段階ではあるが、BMZによって左右・上下の加速度成分が減少する結果が得られており、BMZが無駄な動きを減らしパフォーマンスの向上に寄与する可能性があると考えている。
ところで、我々は生活の中で歩行動作を必要としており、1日の中で必ず歩行を行う。それは移動としての歩行だけでなく、食事を運ぶ、重い荷物を持つなどの作業としての歩行でもある。大学生の日常生活では荷物を持つ歩行が特に多いと思われる。BMZが歩行や運動パフォーマンスに良い影響を与えるのであれば、荷物を持つ負荷歩行を行なった際にも何らかの変化があるはずである。
本研究では、BMZ装着の有無によるパフォーマンスの変化を、背負い鞄に5kgの錘を入れて負荷を与えたときのラインに沿った歩行、階段昇降を課題として検証した。
Ⅱ.方法
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対象
北海道文教大学の学生健常成人男女15名を対象とした。 -
実験環境
普段使用している本大学のフローリングのような固い床の廊下と階段を使用。 -
負荷の提示
背負い鞄の中に5kgの錘を入れて実施。被験者の身体に合わせて背負い鞄の紐を調節し、上肢の位置は背負い鞄の紐を持つのではなく、下して課題を行なった。 -
計測機器
加速度センサー(マイクロストーン社製 8ch小型無線モーションレコーダおよび付属解析ソフトウェア MVP-RF8-S)を使用。体幹の前後・上下・左右方向の加速度を記録したデータをBluetoothワイヤレステクノロジーによりパソコンに転送。計測開始前にPC画面上に表示された波形を目視により0に合わせ、キャリブレーションを行った。加速度センサーは第3腰椎棘突起付近に接するように直接肌に取り付け、キネシオテープでしっかりと固定した。 -
BMZ・靴について
BMZコンプリートインソールを使用。靴はアサヒ社製紐なしのデッキシューズを用いて実施。 -
運動課題
- 課題1:16mのラインに沿った歩行
室内廊下を使用し、フローリングのような固い床で歩行を行なった。開始と終了の場所にテープで印をつけ、長さ16m・幅45cmのラインを引き、できるだけ逸脱しないように前方を向いて歩行を実施。
- 課題2:階段昇降
高さ18cm、幅142cmの階段を1段ずつ昇降した。階段昇降時の歩行は真っ直ぐ階段を8段昇り、その後方向転換し3秒静止した後、8段降りた。階段昇降時は1足1段で手すりを使用せず普段通りの速さで昇降させた。 -
統計
統計処理では対応のある2群のt検定を使用した。
Ⅲ.結果
(図1)歩行によるBMZ有無の加速度の変化
(図2)昇段時によるBMZ有無の加速度の変化
(図3)降段時によるBMZ有無の加速度の変化
(表1)歩行・階段昇降におけるBMZ有無での各方向加速度データ ※p<0.05
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16mのラインに沿った歩行
安定歩行となった6mから12mの加速度データを採用。各方向の最大値を出し平均値を求めた(表1、図1)。左右・前後・上下方向に有意差は認められなかった。 -
階段昇降動作
動作が安定した2段から6段のデータを採用。歩行時と同様に加速度平均値を求めた(表1、図2・3)。
階段昇段動作では左右・前後・上下方向に有意差は認められなかったが、階段降段動作では左方向(p=0.03)、下方向(p=0.04)、後方向(p=0.04)に有意差が認められた(p<0.05)。 -
感想
「歩いた時に安定した」「足にフィットしている」という意見があった。また負荷量(重さ)に対して男性は「少し軽い」と答え、女性は「普通」という発言が見られた。なお、被験者に支持脚を聞いたところ左下肢が14名、右下肢が1名であった。
Ⅳ.考察
歩行と階段昇降の課題を採用したが、歩行・階段昇段時の加速度には有意差は見られなかった。被験者の感想の「軽い」「普通」という発言と併せて考察すると、5kgという重さの荷物による歩行や階段昇段は日常的な動作であり、特別に努力を要するような運動課題ではなかったためと理解できる。
一方、階段降段時にはいくつかの方向で有意差がみられた。階段を下りるときに下肢に加わる負担や衝撃は大きい²⁾。また、降段動作では単脚支持相の時間が昇段動作より長くなるため、不安定な状態で運動する時間が長くなり、昇段動作よりも高いバランス能力が必要になる³⁾。今回背負い鞄に5kgの錘を入れて身体の後方へ負荷を加え、バランスが崩れやすい条件が提示でき、実験課題として適切な条件設定であったと判断できる。
BMZインソールの装着時、階段降段時では左・下・後方向での加速度成分が減少していた。下方への加速度の減少はパフォーマンスの低下によって見られる場合もあるが、被験者の感想を考えあわせると、単脚支持にバランスを崩さずしっかりと体重を支持したこと、運動脚の下降を十分にコントロールしたことによるものと判断できる。
同様に後方への加速度成分が減少していたことも、後方に位置した下肢が身体の急激な落下を防ぐために適切に制御し、運動脚を前方へスムーズに振り出すことができた結果と考えるのが妥当であろう。背負った5kgの負荷に対してバランスを崩さず、身体を前方から下方へスムーズに移動させることができたと判断され、BMZ装着の有用性が示唆される。
左方向の加速度成分に有意差がみられたことについて、左右にぶれる不安定な運動要素が軽減した可能性を示していると思われるが、左方向のみに有意な差が生じていることは、被験者の脚長差や支持脚について関係しているのかもしれない。
脚長差の発生頻度は高く、右短脚のものが多い⁴⁾という報告や、支持脚は着地時の身体の動揺を少なくするような支持機能に優れている⁵⁾という報告がある。被験者の支持脚は左下肢が多かったことから、左下肢での単脚支持に身体の動揺が少なくなり、安定した状態で右方向に移動できたと推測できる。
Ⅴ.まとめ
外側縦アーチは体重支持の土台・安定性が備わっており、足のバランスと密接な関係がある⁶⁾。今回の実験で階段降段時の左・下・後方向の加速度成分が減少したことにより、BMZを使用することで安定した動作が獲得できる可能性を見いだすことができた。
今後は身体の前方に負荷を加えて動作を行なう研究や、難易度の高い課題を提示した際の変化についても検証する必要があると思われる。
<文献>
1)入谷誠:入谷式足底版~基礎編~.株式会社 運動と医学の出版社, pp3, pp44
2)中村隆一:基礎運動学 第6版.医歯薬出版株式会社, pp408
3)藤澤宏幸:日常生活活動の分析 身体運動学的アプローチ.医歯薬出版株式会社, pp226
4)寺本喜好 他:脚長差の発生と要因に関する一考察.運動生理, 7(4):224-234, 1992.
5)池永千寿子 他:静的および動的姿勢制御において、支持足(軸足)は支持足機能を果たしているか?.整形外科と災害外科, 60(4):739-743, 2011.
6)安倍浩之:簡単!効果的に作れる新型インソール.株式会社 三輪書店, pp14